前庭覚を鍛える遊び17選|家庭で簡単にできる!年齢別・タイプ別の実践ガイド

「バランス感覚」を育てる前庭覚とは?

前回の記事「ADHDの子どもが寝ない理由と対策|感覚統合の視点から見る睡眠改善法」で、感覚統合と睡眠の関係についてお伝えしました。その中で触れた「前庭覚(ぜんていかく)」について、もっと詳しく知りたいという声を多くいただきました。

「うちの子、ブランコが大好きで何時間でも乗っている」 「階段を怖がって、いつも慎重に降りている」 「椅子に座っていても、すぐにガタガタ揺らし始める」

これらはすべて、前庭覚の特性と深く関わっています。

前庭覚は、重力・回転・スピード・傾きを感じ取る感覚で、私たちのバランス感覚、姿勢保持、目の動きに深く関係しています。この記事では、お子さんの前庭覚を楽しく育てる遊びを、タイプ別・年齢別にご紹介します。

前庭覚の仕組み—耳の中にあるセンサー

三半規管と耳石器の役割

前庭覚を感じ取る場所は、**耳の中にある三半規管(さんはんきかん)と耳石器(じせきき)**です。

三半規管

  • 頭の回転を感知
  • 「右に回った」「左に傾いた」などの動きを察知

耳石器

  • 重力と直線的な動き(加速・減速)を感知
  • エレベーターに乗ったときの「上昇・下降」を感じる

これらのセンサーが正確に働くことで、私たちは以下のことができます:

✓ まっすぐ立つ
✓ 転ばずに歩く
✓ 動いているものを目で追う
✓ 姿勢を保ちながら勉強や作業をする

前庭覚が発達に与える3つの重要な影響

1. 姿勢の保持とバランス感覚

前庭覚がしっかり働いていると、体の傾きに気づき、すぐに立て直すことができます。

  • 椅子に座って授業を受ける
  • 自転車に乗る
  • 階段を安全に上り下りする

これらはすべて、前庭覚の働きがあってこそです。

2. 目の動きのコントロール

前庭覚は視覚と密接に連携しています。

たとえば:

  • 走りながらボールを目で追う
  • 黒板を見ながらノートに書き写す
  • 本を読むときに文字を正確に追う

前庭覚が未熟だと、これらの動作が難しくなることがあります。

3. 情緒の安定と覚醒レベルの調整

前庭覚への刺激は、脳の覚醒状態を調整する働きがあります。

  • ゆっくりとした揺れ→ リラックス効果、落ち着き
  • 速い動きや回転→ 覚醒効果、やる気アップ

だからこそ、赤ちゃんを抱っこして揺らすと落ち着くのです。

お子さんはどのタイプ?前庭覚の感じ方チェック

前庭覚の感じ方は人それぞれです。ここでは、刺激を受け取りすぎてしまうことを「過敏タイプ」、**刺激を受け取りにくいことを「鈍感タイプ」**と表現します。

過敏タイプの特徴

✓ ブランコや滑り台などの遊具を怖がる
✓ 高い所に登ることを避ける
✓ 高い高いや肩車を怖がる
✓ 足元が不安定な場所(砂場、草の上など)を嫌がる
✓ 階段や坂を歩くときに極端に慎重
✓ 乗り物酔いをしやすい
✓ エスカレーターやエレベーターを怖がる

なぜこうなる? 前庭覚が敏感すぎるため、わずかな動きや傾きでも「怖い!」「不安!」と感じてしまいます。脳が「危険だ」と過剰に反応している状態です。

鈍感タイプの特徴

✓ 高い所に登ったり、飛び跳ねたりと動きが多い
✓ ブランコや滑り台を繰り返し何度も使う
✓ ぐるぐる回っても全然目が回らない
✓ 椅子に座っているとき、椅子をガタガタ揺らす
✓ じっとしていられず、常に体を動かしている
✓ 回転するもの(換気扇、タイヤなど)を見つめるのが好き
✓ トランポリンで何時間でも跳び続けられる

なぜこうなる? 前庭覚への刺激が脳に届きにくいため、より強い刺激を求めて動き回ります。「もっと感じたい!」と体が求めている状態です。


タイプ別アプローチの基本原則

過敏タイプへの基本対応

スモールステップで安心できるところから

  1. 大人と一緒にとりくむ まずは安心感を提供することが最優先です。
  2. 小さい刺激からはじめる いきなり大きな刺激ではなく、ほんの少しの揺れや動きから。
  3. 子どもから見える位置で支援 後ろから押すと不安になるため、前や横から「ここにいるよ」と伝える。
  4. 自分からチャレンジする機会を待つ 無理強いは逆効果。「怖くなかった!」「できた!」という成功体験の積み重ねが大切。

鈍感タイプへの基本対応

刺激を十分に充足させる時間を作る

  1. 必要な感覚であることを理解する 「落ち着きがない」のではなく、「脳が求めている刺激を得ようとしている」と捉えます。
  2. 安全な環境で思い切り動ける時間を確保 公園や体育館など、安全に動ける場所を定期的に確保します。
  3. 危険な行動には代替案を提示 高い所から飛び降りようとする→トランポリンやマットでジャンプ遊びを提案
  4. 日常生活の中に動きを組み込む 座る時間の前後に体を動かす時間を設けます。

【家庭編】今日からできる!前庭覚を育てる遊び

0〜2歳向け:優しい揺れで安心感を

1. 抱っこ揺れ遊び

対象タイプ: 過敏・鈍感どちらでも
やり方:

  • 赤ちゃんを抱っこして、ゆっくり左右に揺れる
  • 前後に揺れる
  • その場でゆっくり回転する

ポイント: 赤ちゃんの表情を見ながら、心地よいリズムを見つけましょう。

2. バスタオルブランコ

対象タイプ: 鈍感タイプ(過敏タイプは様子を見ながら)
やり方:

  • バスタオルの端を大人2人で持つ
  • 子どもをタオルの上に寝かせる
  • ゆっくり左右に揺らす

安全のコツ: 低い位置で、床にクッションを敷いておくと安心です。

2〜4歳向け:楽しく動きを体験

3. お布団ゴロゴロ遊び

対象タイプ: 鈍感タイプにおすすめ
やり方:

  • 敷布団やマットの上で横になる
  • ゴロゴロと転がる
  • 「コロコロ〜」「ゴロゴロ〜」と声をかけながら

発展系: でんぐり返しにもチャレンジ!

4. 親子飛行機ごっこ

対象タイプ: 両タイプ(過敏タイプは低い位置から)
やり方:

  • 大人が仰向けに寝る
  • 足の裏に子どもの体を乗せる
  • 「飛行機出発〜!」と言いながら足を上げ下げ

過敏タイプ向け: 最初は低い位置で、子どもが「もっと高く!」と言ったら徐々に。

5. シーツそり遊び

対象タイプ: 鈍感タイプに特におすすめ
やり方:

  • シーツの端を大人が持つ
  • 子どもをシーツの上に座らせる
  • 床の上を滑らせるように引っ張る

アレンジ: 「出発進行〜!」「トンネルだよ!」などストーリーをつけると楽しい。

4〜6歳向け:バランス感覚を挑戦的に

6. クッション山登り

対象タイプ: 両タイプ
やり方:

  • クッションやお布団を積み重ねる
  • その上を歩いて渡る、登る

過敏タイプ向け: 低い山から。大人が手を添えて。
鈍感タイプ向け: 高さを変えたり、でこぼこを作って難易度アップ。

7. バランスボール遊び

対象タイプ: 両タイプ
やり方:

  • バランスボールに座る
  • ゆっくり上下に弾む
  • 大人が支えながら前後左右に揺らす

効果: 前庭覚だけでなく、体幹も同時に鍛えられます。

8. おんぶ・肩車ツアー

対象タイプ: 過敏タイプの慣れに最適
やり方:

  • 家の中をおんぶや肩車で移動
  • 「次はキッチンだよ」「窓から外を見てみよう」

過敏タイプ向け: おんぶから始めて、慣れたら肩車へ。
鈍感タイプ向け: ぐるぐる回りながら移動すると刺激増。

小学生向け:遊びから日常へ

9. 雑巾がけ競争

対象タイプ: 鈍感タイプに特におすすめ
やり方:

  • 四つん這いで雑巾がけ
  • 「よーいドン!」で競争

効果: 前庭覚+固有受容覚+家事のお手伝い一石三鳥!

10. トランポリン(家庭用)

対象タイプ: 鈍感タイプ
やり方:

  • 家庭用の小型トランポリンで跳ぶ
  • 時間を決めて使用(5分跳んで5分休憩など)

注意: 安全のため、必ず大人が見守りましょう。


【公園・外遊び編】遊具を活用した前庭覚トレーニング

過敏タイプのお子さんと公園で楽しむコツ

11. ブランコの段階的アプローチ

ステップ1: 大人と一緒に乗る
まずは膝の上に座らせて、安心感を。

ステップ2: 小さい揺れから始める
大人が揺れを調整。子どもから見える位置(前や横)から押すと安心です。

ステップ3: 自分で揺らす
足の蹴り方を教えながら、自分でコントロールする楽しさを。

12. 滑り台の安心チャレンジ

ステップ1: 大人と一緒に滑る
膝の上に座らせて滑ります。

ステップ2: 低い滑り台から
公園の中で一番小さい滑り台を選びます。

ステップ3: 手すりのある滑り台を選ぶ
安心感が違います。

避けたい状況: 大勢の子が並んでいる場所、手すりのない高い滑り台。

鈍感タイプのお子さんと公園で満足する遊び

13. 全力坂道ダッシュ

やり方:

  • 安全な坂道を見つける
  • 上から下へ全速力で走る
  • 何度も繰り返す

効果: スピード感が前庭覚をしっかり刺激します。

14. ターザンロープ・うんてい

やり方:

  • ターザンロープでスピード感を楽しむ
  • うんていで体を前後に揺らす

安全のコツ: 下に柔らかいマットや砂があることを確認。大人が近くで見守る。

15. 自転車・三輪車の冒険

やり方:

  • 広い場所で自由に乗る
  • スラロームのように障害物を置いて回る

効果: バランス感覚+スピード感+方向転換の訓練。


日常生活の中に前庭覚刺激を取り入れる工夫

鈍感タイプ向け:生活の中での刺激確保

朝のルーティンに組み込む

  • 起きたらまず布団の上でゴロゴロ10回
  • 朝ごはんの前にトランポリン3分

学習前の準備運動

  • 宿題の前に5分間体を動かす時間
  • 「雑巾がけ→宿題→遊び」の順番

座るときの工夫

  • バランスボールやエアクッションに座る
  • 揺れながらテレビを見てもOKに

お手伝いで刺激をゲット

  • 物を取ってきてもらう(移動の機会)
  • お皿運び(バランスをとりながら歩く)
  • モップかけ(全身を使う)

過敏タイプ向け:安心感を保ちながら少しずつ

移動時の選択肢を増やす

  • エスカレーターが怖い→エレベーターや階段も選択肢に
  • 「今日はどれにする?」と選ばせる

予告と準備

  • 「今から揺れる遊びをするよ」と事前に伝える
  • 「怖かったらいつでも止めるからね」と約束

成功体験を言葉にする

  • 「今日はブランコ3回揺れたね!昨日は1回だったから成長したよ!」
  • 小さな進歩を一緒に喜ぶ

外出先での待ち時間にできる前庭覚遊び

16. その場でゆらゆら(どこでもできる)

やり方:

  • 立ったまま左右にゆらゆら
  • 座ったまま上半身を左右に傾ける

使える場面: 病院の待合室、レストランの待ち時間

17. 足踏みステップ

やり方:

  • その場で足踏み
  • 「右、左、右、左」とリズムをつけて

効果: 前庭覚+固有受容覚。狭いスペースでもOK。


年齢別発達の目安と遊びの選び方

0〜1歳:ゆっくりとした揺れで基礎作り

発達の特徴: ゆっくりした揺れを喜ぶ段階
おすすめ: 抱っこ揺れ、優しいスイング

1〜3歳:動きの幅が広がる時期

発達の特徴: 歩行が安定し、走る・登るが始まる
おすすめ: ゴロゴロ遊び、低い滑り台、親子ふれあい遊び

3〜6歳:バランス感覚が急速に発達

発達の特徴: 片足立ち、でんぐり返しができるように
おすすめ: ブランコ、滑り台、自転車、バランスボール

小学生以上:複雑な動きへの挑戦

発達の特徴: スポーツや複雑な遊具にチャレンジできる
おすすめ: うんてい、ターザンロープ、自転車、スポーツ全般

注意: 前庭系の問題は学年が上がると軽減しやすい傾向がありますが、個人差があります。


遊びを選ぶときの3つのポイント

1. お子さんの「楽しい!」を最優先

感覚統合遊びは、楽しくなければ意味がありません

「これが発達に良いから」と無理にやらせるのではなく、お子さんが「もっとやりたい!」と思える遊びを見つけましょう。

2. 安全面への配慮を忘れずに

特に鈍感タイプのお子さんは、高い所から飛び降りるなど危険な行動をとることがあります。

  • 周りに障害物がないか確認
  • 下にマットやクッションを敷く
  • 必ず大人が見守る

3. 無理強いは逆効果

特に過敏タイプのお子さんに対しては、「みんなやってるよ」「これくらいできないと」という言葉は禁物です。

「できた!」という小さな成功体験を積み重ねていくことが、長期的には大きな成長につながります。

前庭覚と「落ち着き」の深い関係

前回の記事「ADHDの子どもが寝ない理由と対策」でお伝えしたように、前庭覚への適切な刺激は、情緒の安定と覚醒レベルの調整に深く関わっています。

日中に十分な前庭覚刺激を受けることで:

✓ 夜の寝つきが良くなる
✓ 授業中に落ち着いて座っていられる
✓ 感情のコントロールがしやすくなる
✓ 不安感が軽減される

これは、前庭覚への刺激が脳の覚醒状態を適切に調整するためです。

チェーンブランケット使用者インタビューより

夜の「落ち着き」をサポートするチェーンブランケット

日中に思い切り体を動かした後、夜は適度な重みと圧力で体を落ち着かせることも大切です。

前回の記事でご紹介したチェーンブランケットは、前庭覚と固有受容覚の両方に働きかけ、体の感覚を統合するサポートをします。

特に、日中に十分な前庭覚刺激を受けた後に使用すると:

  • 興奮した神経を落ち着かせる
  • 体の位置(ボディイメージ)を明確にする
  • 安心感の中で深い眠りに入りやすくなる

「昼間は思い切り動いて、夜は深い圧力で落ち着く」—このリズムが、お子さんの健やかな発達を支えます。

詳しくは「ADHDの子どもが寝ない理由と対策|感覚統合の視点から見る睡眠改善法」をご覧ください。

チェーンブランケットをお昼寝で使う発達支援センターの様子

まとめ:前庭覚は「遊び」で楽しく育てる

前庭覚を育てるために、特別な道具や環境は必要ありません。

✓ 家の中では:布団、クッション、バスタオルで
✓ 公園では:ブランコ、滑り台、坂道で
✓ 日常生活では:お手伝い、移動、座り方の工夫で

大切なのは:

  1. お子さんのタイプ(過敏・鈍感)を理解する
  2. 無理強いせず、楽しみながら取り組む
  3. 安全面に配慮しながら、十分な刺激を確保する
  4. 小さな成功体験を積み重ねる

前庭覚が育つと、バランス感覚だけでなく、学習への集中力、情緒の安定、睡眠の質など、生活全般にプラスの影響があります。

今日から、お子さんと一緒に楽しく前庭覚を育てる遊びを始めてみませんか?


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📚 参考文献・出典

前庭覚の基礎知識

前庭覚と姿勢・バランスの関係

発達障害と前庭覚

感覚統合を促す遊び

家庭でできる感覚統合遊び

年齢別発達段階

感覚過敏・感覚鈍麻

参考文献(専門書)

  • 太田篤志、土田玲子「Japanese Sensory Inventory Revised ver.2002」
  • 加藤寿宏「子どもの理解からはじめる感覚統合遊び」クリエイツかもがわ
  • 木村順「発達障害のある子どもの運動と感覚遊びを根気よくサポートする!」日東書院

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